
中小企業のAI導入は何から始める?Anthropicの広告文生成に学ぶ業務の選び方
AIを仕事で使いたくても、自社のどの業務から始めるかは迷うところです。
AIを開発するAnthropicは、社内事例で広告文を自動生成する取り組みを紹介しています。既存広告と成果指標の一覧から改善対象を選び、文字数の条件に合う新しい広告文を作る、という具体的な仕事です。
自社で試すときも、何を渡して何を作るかを説明できる1業務まで絞ると、任せる範囲を決めやすくなります。広告文を作る流れを手がかりに、問い合わせ対応や見積前の確認などへ当てはめ、使うツールを選ぶところまで考えてみましょう。
最初に試す業務を1つ選ぶ
検討中の企業は、調査でも一定の割合を占めています。東京商工会議所が会員中小企業に行った調査では、生成AIを活用している企業は11.7%、今後の活用を検討している企業は33.5%でした。
すでに使っている会社でも、全社的な仕組みから始めたとは限りません。OECDが2026年に公表した中小企業向けの調査では、回答企業の61%が少なくとも1つのAIアプリを使っている一方、そのうち76%は既製のツールを単独の業務に使う段階でした。各国の中小企業を代表する標本ではないため、割合をそのまま自社や国内全体へ当てはめることはできませんが、既存の道具を一部の業務に使うところも導入の入口です。
先に業務を1つ選んでおけば、ChatGPTなどへ資料を渡すだけで足りるか、今の業務ソフトを使えるか、個別の連携が必要かを比べられます。その判断に向けて、自社で繰り返している作業を具体的にしていきましょう。
試しやすい業務に共通する型
候補を探すときは、作りたい出力を次の5つに分けると整理しやすいでしょう。
- 下書き — 返信メール、案内文、実績紹介ページの原稿
- 要約 — 長い資料、議事録、問い合わせの経緯
- 分類 — 問い合わせの種類分け、アンケート回答のグルーピング
- 抽出 — PDFやExcelから必要な項目だけ取り出す
- 一覧化 — メールやフォームに散らばった情報を1つのリストにまとめ直す
文章校正、資料要約、必要情報の抽出、問い合わせ窓口、社内情報検索は、IPAの中核人材育成プログラムの成果物であるテキスト生成AI導入・運用ガイドラインでも挙げられている活用場面です。先ほどの東京商工会議所の調査でも、活用中の企業の用途はコンテンツ作成・校正が63.8%で最多でした。
候補を比べる際は、下書きや要約といった種類に加え、次の5つを目安にすると、試す範囲と結果の確かめ方が具体的になります。
- 同じ作業が繰り返し発生する
- 入力に使う資料やデータがある程度そろっている
- 欲しい出力を具体的に説明できる
- 守るべき条件を言葉にできる
- 出力の良し悪しを元の資料やルールに照らして確認できる
Anthropicは広告文を作る工程をどう分けたか
この5つを考える手がかりになるのが、冒頭で触れた広告文生成です。Anthropicの公式資料の15ページでは、広告運用などを担うGrowth MarketingチームがClaude Codeを使い、Google広告向けの広告文の候補を作る仕組みを組んでいます。工程を分けると、次のようになります。
- 入力:既存広告と成果指標をまとめたCSVファイル
- 改善対象の選択:広告の成果指標をもとに、成績の低い広告を特定
- 生成する処理:見出しと説明文を、それぞれ別の処理で作成
- 守る条件:この事例では、見出し30文字・説明文90文字の上限
- 出力:改善対象の広告に対する、新しい広告文の候補
資料では、数百件の広告案を数分で生成できるとされています。16ページでは、広告文の作成に2時間かかっていたのが、15分で済むようになったと報告されています。同社による社内利用の報告値で、生成後の確認・承認を誰が行い、その時間を含めて測ったかまでは示されていません。
この事例から参考にしたいのは、入力と成果物に加えて、守る条件まで具体的なことです。文字数なら出力を数えて確かめられます。自社の仕事でも、返信に含める項目や、資料にない情報は補わないといった条件を決めると、AIに任せる部分と出力を点検する箇所がはっきりするでしょう。
自社の業務に当てはめる
広告を扱わない会社でも、入力・出力・守る条件という分け方は使えます。次は、同じ考え方を日々の業務に当てはめた想定例です。
| 試す業務 | 入力に使うもの | 欲しい出力 | 判断材料・守る条件 |
|---|---|---|---|
| 問い合わせの返信案を作る | 問い合わせメール、商品情報、価格表 | 問い合わせの種類と返信案 | 商品情報と返信ルールに沿う。未確定の納期は約束しない |
| 見積前の不足事項を洗い出す | 顧客のメールやフォーム、見積に必要な項目の一覧 | まだ確認できていない項目のリスト | 自社の見積ルールと照合し、数量や納期を推測で埋めない |
| 議事録からタスクを整理する | 会議の記録 | タスク・担当者・期限の一覧 | 記録にない担当者や期限は未定として残す |
たとえば見積前の確認なら、商品名と数量は届いているものの、納品先と希望納期が抜けているケースを一つ用意できます。AIがその2点を不足事項として挙げるか、書かれていない条件を作っていないかを見れば、出力の確かめ方も具体的です。
候補を1つ選んだら、使ってよい資料かを確認し、最後に誰が何を確かめるかまで決めておきます。見積前確認の例では、営業担当者が顧客の原文と不足事項一覧を照合してから、確認のメールを送るところまでが人に残す仕事です。
汎用AI・既存SaaS・個別開発のどこで扱うかを見分ける
試す業務が決まったら、次はそれをどこで動かすかです。経済産業省のAIの利用・開発に関する契約チェックリストでは、汎用的AIサービス利用型、カスタマイズ型、新規開発型の3類型を示しています。自社の用途でも、既存サービスをそのまま使えるか、調整や開発が必要かを分けて考えると、比較する範囲を整理しやすいでしょう。
汎用AIや既存SaaSで必要な作業ができるなら、追加の開発は不要です。連携や開発を検討するのは、既存の機能では満たせない条件がある場合です。
汎用AIの一般利用で足りる範囲
ChatGPTやClaudeのような汎用サービスへ、その場で材料を貼り付けて結果を受け取る使い方です。利用できる契約と入力してよい資料が確認できていれば、専用のシステムを作る前に、下書きや要約を試せます。
この範囲で足りるのは、おおむね次のような条件がそろっている場合です。
- 材料をその都度コピーして貼れる量である
- 処理する件数が多くない
- 社内で完結し、そのまま顧客に届かない
- 出力を人が直す前提で使える
たとえば公開済みの案内文を材料に下書きを作り、人が内容を確認する範囲なら、入力と確認の手順を具体的にしやすいでしょう。顧客情報や社外秘の資料を使う場合は、後述する利用目的、契約、データの扱いの確認が先です。
既存SaaSの機能で足りる範囲
次に確認したいのは、すでに契約している業務ソフトのAI機能です。たとえばGoogleスプレッドシートのヘルプには、シート内でのテキスト生成、要約、カテゴリ分けに加え、DriveやGmail内のファイル・メールの要約が案内されています。Googleフォームの回答分析についてのヘルプでは、自由記述の回答をスプレッドシート上でテーマごとにまとめる使い方を紹介しており、8〜200件程度の回答が適した目安です。
確認先は、公式ヘルプと契約プランの機能一覧、それに自社の管理者です。試したい作業を1つ伝え、必要な機能が今のプランで使えるか、管理者による有効化が必要かを確かめます。機能がなければ、許可された資料を汎用AIへ手動で渡せるかを確認し、それでも足りない条件を個別連携の検討へ回す順番です。
既存のSaaSで進めやすいのは、次のような条件のときです。
- 扱いたいデータが、すでにそのサービスの中にある
- 標準の権限設定や共有設定で足りる
- 処理の中身が下書き、要約、分類、一覧化、簡単な集計にとどまる
今のプランに必要な機能が含まれ、既存の権限設定で運用できるなら、契約や共有の仕組みを増やす負担も抑えられます。その範囲で業務が回れば、個別開発を急ぐ必要はありません。
個別連携や個別開発を考え始める条件
MicrosoftのAIエージェント向け技術選定ガイドも、まず既製のSaaSエージェントで機能要件を満たせるかを問い、足りない場合にカスタム構築を検討する順番です。既存の機能を試してから不足を具体化すると、何のために開発するのかを説明しやすくなります。
足りなくなるのは、たとえば次のような条件が増えたときです。
- 複数のシステムをまたいでデータを取りに行く必要がある
- 承認の流れや公開範囲を、業務ごとに変えたい
- 誰がいつ何を実行したかを、記録として残す必要がある
- 例外的なフォーマットや、失敗したときの再実行まで設計したい
- 処理件数が、人のコピーと貼り付けでは回らない量になっている
もっとも、既存SaaSと個別開発の境目は、既存コネクタの有無、公開範囲、承認や記録の要件によって変わるものです。上の条件に当てはまっただけで開発を決めず、今の機能で満たせない部分を確認してから比べます。
自動化を広げる際には、サービス同士がデータをやり取りする窓口であるAPIの有無も判断材料です。AnthropicのGrowth Marketingチームの助言にも、APIを利用できる反復作業を探すことや、複雑な工程を分けて段階的に組むことが挙げられています。
自社で始めるなら、まず人が資料を渡し、見積前の不足事項を洗い出す部分だけ試す方法もあります。結果を確かめたうえで、メールからの転記や一覧への保存が負担になってきたら、その工程をつなぐ方法を比べる順番です。
人が確認する前提で組むと、最初の一歩は軽くなる
最初に試す段階では、AIに下書きや候補を作ってもらい、最後に人が確認する形から始めると、任せる範囲を絞れます。IPAのガイドラインでも回答の正確さは常に保証されないとされているため、たとえば議事録から抜き出した担当者と期限なら元の記録へ戻って確かめ、誤りを直してから使う形です。確認する項目まで決めておけば、担当者が毎回迷う負担も減らせるでしょう。
使い始める前に社内で決めておく5点
社内ルールといっても、最初から規程を作る必要はありません。次の5点を数行のメモにまとめておくだけでも、判断に迷う場面はかなり減ります。
- 入力してよい範囲 — 社内ルールとサービスの利用条件で認めた情報
- 確認できるまで入力しない情報 — 顧客の個人情報、契約条件、未公開の見積金額
- 承認が必要な行為 — 顧客への送信、金額の確定、契約に関わる文言の確定
- 記録の残し方 — どのやり取りを、どこに、いつまで残すか
- 迷ったときの相談先 — 判断に困ったら誰に聞くか
IPAのガイドラインも、生成AI導入の前提としてスモールスタート、文書化、継続的改善を挙げています。たとえば、上の5点を担当者が参照できる場所に残し、運用中に変わった項目を書き直す方法があります。
顧客情報や個人情報を扱う前に確かめること
顧客情報や個人情報を使う場合は、法令上の確認、試し方の工夫、サービスごとの条件を分けて考える必要があります。
法令上の確認が必要な部分は、入力が利用目的の達成に必要な範囲か、提供事業者が入力した個人データを何に使うかという点です。個人情報保護委員会の生成AIサービスに関する注意喚起では、個人情報取扱事業者に対し、本人の同意を得ずに入力する個人データが、機械学習など応答の生成以外に使われないかを十分確認するよう求めています。同委員会のリーフレットでも、個人情報取扱事業者が、入力情報を学習データとして利用するサービスへ個人データを入力する場合は第三者提供に当たり、原則として事前の本人同意が必要と説明されています。
試し方の工夫として、実際の顧客データを使う前に、公開済みの資料や架空の例で入力と出力を確かめる方法もあります。氏名や連絡先を外しただけでは、ほかの項目から個人が分かる場合もあるため、それだけで入力してよいと判断せず、実データを使う段階で法令と社内ルールを確認する形です。
注意点として、学習利用の設定、データの保存先、保存期間は、サービスや契約プランごとに異なり、更新も早い分野です。導入を決めるタイミングで、各サービスの最新の規約と設定を確認しておくと安心です。
いま始めること、待つこと、避けること
いま試せるのは、使ってよい資料と確認担当が決まった範囲です。全社の資料を扱う仕組みや外部への自動操作は、必要な条件を整えてから広げていきます。
すぐに始められること
使う資料の入力可否と確認担当が決まれば、社内で完結する小さな作業から着手できます。以下はいずれも、その確認を済ませた資料で試す候補です。
- 問い合わせメールを一覧にして種類ごとに分け、返信案は人が直す
- 見積前に聞いておくべき確認事項を、過去のやり取りから洗い出す
- 議事録から、次のタスクと担当者を抜き出す
- よく使う社内資料を10本ほどに絞り、そこだけ探しやすくする
条件を整えてから進めること
次の3つは、扱う情報や自動化する工程に応じた準備が必要です。
- 全社の資料をまとめて検索できる仕組み — 更新の責任者と公開範囲が決まってから
- 基幹システムとの直接連携 — 前後の工程から切り出したほうが早く試せる
- AIエージェントによる複数ステップの自動実行 — 人のコピーと貼り付けが追いつかなくなってから
3つ目については、OpenAIが公開しているエージェント構築の実践ガイドも、いきなり完全に自律的な構成や複雑な多エージェント構成へ進むより、まず単一のエージェントで小さく始めて能力を段階的に増やすほうが成功しやすいとしています。同ガイドは、注文の取り消し、大きな返金、支払いのような高リスクの行為には人の監督を入れるべきだとも述べています。
避けたほうがよいこと
反対に、次の4つは最初の1業務には入れないほうが無難です。
- 顧客への自動送信を、人の確認なしで通す
- 金額の確定や契約に関わる判断を、AIの出力だけで決める
- 個人情報を含むデータを、規約と設定を確かめないまま入力する
- 対象業務を決めないまま、AI導入そのものを目的に社内へ広げる
顧客への送信や金額の確定は、誤りが相手に届いた後で取り消しにくい処理です。誰が何を確かめてから実行するかを先に決め、個人情報の入力については、前の節で挙げた法令上の確認とサービスの利用条件も満たす必要があります。
試した結果から続けるかを判断する
小さく試したあと、続けるかやめるかを決められないまま宙に浮かせてしまうと、次の一手も打ちにくくなります。IPAのDX動向2025によると、DXに取り組む日本企業の63.5%は成果指標を設定しておらず、その理由は「これから定める」が35.5%、「設定方法がわからない」が28.7%と上位でした。設定済みの企業では、指標として「業務効率化・工数削減」が最も多く挙げられています。
効果を先に約束できない代わりに、判断材料になりそうな項目を挙げておきます。
- 1件あたりの処理時間と、月あたりの件数
- 出力を人が直した回数と、直した箇所の傾向
- 確認漏れや聞き返しの往復が減ったかどうか
- 問い合わせへの一次回答までの速さ
- 担当者以外でも、同じ手順で回せたかどうか
比べる相手は他社の事例ではなく、同じ業務の1か月前の自社です。処理時間と件数だけでも記録しておけば、続けるか、やり方を変えるか、いったんやめるかの判断はつけやすくなります。
よくある質問
- データが整っていない状態でも試せますか。
- 全社のデータを整えてから始める必要はありません。整っている業務を1つ選ぶ、という順番で考えるほうが現実的です。毎週同じ形で届くメール1種類、同じ様式の帳票1つ、フォームの回答1種類のように、入力の形が決まっている範囲であれば、いまの状態のまま試せます。
- ChatGPTなどの一般利用だけで足りますか。社内共有まで考えるべきですか。
- 1人か2人で試す段階であれば、一般利用で足りることが多いです。共有の仕組みが必要になるのは、同じ手順を複数人で回す、出力を残して引き継ぐ、誰がいつ使ったかを記録する、といった要件が出てきたときです。先に一般利用で使いどころを確かめてから共有の形を決めると、設定をやり直す手間を減らせます。
- 顧客情報や見積情報を入れてよいですか。
- 個人情報を含む場合は、利用目的の範囲と、提供事業者による学習利用などの扱いを確認するのが先です。見積情報についても社内の機密情報の扱いに従い、入力可否が確認できるまでは、公開資料や実在の顧客と関係のない架空の例で試します。
- 古い基幹システムがありますが、進められますか。
- 基幹システムそのものに手を入れる必要はありません。入力前の情報整理や、出力後の資料作成といった前後の工程から切り出すと、システムを触らずに試せる範囲が残っていることが多いです。連携の話は、その範囲で効果が確かめられたあとでも間に合います。
- AIエージェントはいつ必要になりますか。
- 複数のステップ、外部ツールの呼び出し、条件による分岐が増えて、人のコピーと貼り付けがボトルネックになってきたときです。1回のやり取りで完結する業務なら、汎用AIへ資料を渡して結果を受け取る方法が候補になります。
自社に置き換えるときの整理項目
最初の一歩は、試す業務を1つ選ぶことです。入力の場所、作りたい出力、守る条件、最後の確認者を決めてから、汎用AIや既存SaaSで足りるかを比べ、不足する条件があれば個別開発を検討します。顧客への送信や金額の確定は、確認と記録の手順を整えてから扱う範囲です。
自社に当てはめる際は、次の3点をメモにまとめておくとよいでしょう。
- 毎週くり返している業務のうち、下書き・要約・分類・抽出・一覧化のどれかで軽くなりそうなものを1つ挙げる
- 入力・欲しい出力・守る条件を書き出し、最後に誰が何を確認するかを決める
- いま契約しているサービスの機能で足りるか、足りないとしたらどの条件が増えているかを確かめる
PASHでも対象業務の整理からご一緒できます。使う資料・欲しい出力・守る条件・確認担当を整理したうえで、汎用AIや既存SaaSで足りるか、個別の連携が必要かを一緒に切り分けます。
更新履歴(最終更新: 2026年9月6日)
- 初回公開
著者プロフィール
大崎 一徳 / エンジニア
中小企業向けに、AI導入・業務自動化・ツール開発を支援しています。 PoC から本番運用まで一貫して伴走し、「現場で使われ続ける仕組み」をつくることを大切にしています。
Udacity Deep Learning Nanodegree 修了
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